『イラクの小学校』 2005年3月
イラクでは、1月30日に移行国民議会選挙が行われました。厳しい治安情勢の中で、選挙が果たして予定通り実施されるか、心配されましたが、多くのイラク国民が投票所に赴き、新しい国民の代表を選びました。選挙の最終結果は2月17日に発表され、現在新政府の樹立、新国会の召集に向けて、さまざまな政治勢力の間の話し合いが続いています。外から見ていると、時間がかかっているように感じますが、これから憲法制定に向けて国民の意見を結集する大事な時期です。もう少し辛抱強く待つ必要があるようです。
日本にいると、イラクからのニュースはテロ事件ばかりで、治安情勢はどうしようもない泥沼のように見えるかもしれません。しかし、イラクにおいても市民は日常生活を営んでおり、よりよい将来のためにそれぞれに頑張っているのです。
今日は、とある小学生の学校の様子を紹介してみましょう。
セイフ君はバグダッド市内の小学校に通う2年生です。イラクでは、小学校が6年間、中学校が6年間の制度になっています。小中学校は、基本的にはすべて公立の学校です。セイフ君の小学校は比較的小さいところで、1クラスは30人くらい、各学年2クラスずつです。新学期は、通常9月半ばから5月末まで。通常と書いたのは、最近戦争などの影響で新学期の始まりが遅れたりしているからです。
朝は、8時の全校朝礼から始まります。1年生から6年生までの全校生徒がセメント貼りの校庭に集まり、先生の話を聞きます。朝礼では、イラク国歌を歌いますが、国歌は昨年変わりました、というよりフセイン時代の国家に代わってそれより古い国歌が再度歌われるようになったのです。フセイン時代の国歌が別に政治的な内容の歌詞であったわけではないのですが。悪いことをすると朝礼で全校生徒の前で叱られたりすることもあるから大変です。成績やお行儀が良かった子は、ほめられて全校生徒から拍手を受けることもあります。
授業は、1コマ45分で、1日5〜6コマですから、これは日本とあまり変わりありません。
科目を見てみましょう。算数が毎日朝の一時間目にあります。アラビア語は週になんと11時間もあり、日に2時間はアラビア語の勉強です。アラビア語は、イラクの子供にとっても読み書きがむずかしいようです。教科書を見てみると、文字を覚える前にいきなり単語から勉強します。これだと、新しい単語が出てきてもなかなか読めないので、この方法は先生や父兄にはあまり評判が良くないみたいです。
他には、理科、図画、歌、体育などといった授業があります。5年生くらいになると社会の授業が始まります。社会の授業は、昔はサダム・フセインの業績やバース党(フセイン時代の唯一政党)についての勉強などをしていたようですが、今は民主主義について勉強したりするそうです。科目の中身がすっかり変わったのですが、多くの学校で新しい教科書はまだ来ていないとか。歴史や地理、英語も原則として小学校5年から始まります。
授業は、日本の小学校の授業の方が面白いかもしれません。理科は、本に書いてあることを教わるだけで、実験をしたり、観察をしたりという時間がほとんどないようです。体育の時間も体操をしたり、行進をしたりといった感じで、サッカーやバスケットボールを学校でプレーすることはないそうです。これは子供たちにとってはつまらないでしょう。教室の中も、黒板を除けば先生や父兄が作った算数の計算の紙が貼られているくらいで、殺風景といってよいくらいです。それから、歌の時間に歌を歌うだけ、学校で楽器を演奏することはありません。
日本と違うのは、コーラン(クルァーン)の授業があること。コーランはイスラム教の聖典ですが、コーラン自体はとても難しいので、コーランを書き直してお話にしたものを勉強したり、コーランの中の短い節を覚えたりします。イラクには、キリスト教徒もいますが、キリスト教徒の子供は、コーランの授業は受けず、図書室などで自習するということです。
イスラム教の影響か、3年生以上は男女別クラスになります。そして、中学校になると完全に男女別学になります。共学なのは、音楽専門学校くらいです。クラスは別々でも、トイレは男女共用ですから、ちょっと可愛そうですね。イラク戦争の前は、休み時間は男女別々にすごさなければならず、校庭には男女を分け隔てる壁があったそうですが、最近壁が取り払われて、休み時間は男女一緒にいてもよいことになりました。戦争を通じて少しずつイラクも変わっているようです。
セイフ君の通う小学校は昨年の夏に米軍の手で修復されました。外見は、ペンキが塗りなおされたり、新しい机が入ったりしてきれいになりましたが、図書館には本がほとんどないし、教育の中身もこれから改善しなければならないことがたくさんあります。