続イラク便り



『イラクの警察官』 2005年5月

1月30日の移行国民議会選挙の後、治安情勢は徐々に改善してきたように見えたのですが、4月の終わりからまた爆弾テロなどの事件が増加しています。5月上・中旬の20日間だけでテロによるイラク人死者は約500人にも上ってしまいました。テロ攻撃の主なターゲットは多国籍軍よりもむしろイラクの人です。中でも多くの犠牲者が出ているのがイラクの警察官や警察官志望者です。

最近も、大使館の現地職員の息子さんである警察官が自爆テロに巻き込まれて殉職しました。身近な人をテロで失い、みんなは多くのショックを受けました。息子を失った父、父親を失った幼い子供、夫を失った若い妻がまた残されたのです。

一方で、テロの犠牲になる警察官が多いのに、バグダッドの街角には少しずつ警察官が増えてきているような気がします。警察官の志望者も減っているわけではないようです。多くの警察官がテロの犠牲になっているのに、どうして志望者がまだ数多くいるのでしょうか。一つには、失業に苦しむイラク人が危険でも安定した収入の得られる警察官を目指すということがあります。新たに任用された警察官は先進国や周辺国の支援を受けながら短いながらも訓練を受ける機会があります。技術者などと同様に、周辺諸国などで研修を受ける警察官もいます。

一方、危険な職業であるとわかっていても、平和で安定した国を作りたい、そうしてイラク社会に貢献したいという気持ちから警察官に志願してくる人もいます。訓練不足からまだまだ未熟であると評されたり、時には腐敗していると批判されたりするイラクの警察ですが、勇敢な警察官もいるのです。


カナダ人の警察官でイラク警察を指導訓練している人の話です。1月30日の選挙の日に、ある投票所に自爆テロを行おうとして爆弾を身体に巻きつけた男が向かってきました。それを見つけたイラク人警官が爆発を防ぐため、男が群集に近づく前に身体を投げ出して男を取り押さえました。しかし、爆弾は爆発し、他の人たちは無事でしたが、その警官は亡くなってしまいました。もし、警官が身を投げ出して男に立ち向かわなかったら、何十人、あるいは百人以上の死者が出たかもしれなかったのです。投票所にいた人々は、警官の献身に感謝し、その死を悼みました。地域の人々の中で警官を顕彰するモニュメントを作りたいという話しもあるそうです。


イラクからの報道はテロ事件ばかりで、このイラク便りにはそうしたことは載せないでおこうと思っていました。でも、警察官が町を守る風景もイラクの日常です。治安がなかなか回復しない中で、イラクの人は警察の能力に不満を持っているようですが、多くの警官たちが今日もイラク人の願う平和で安定した社会を実現するための仕事を続けています。



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