続イラク便り



『イラクの大学』2005年7月

イラク戦争の後、イラクの大学にはどのような変化が起こったのでしょうか。 イラクの大学は公立(国立)と私立に分かれます。戦後にできた大学もあるようですが、国立大学は全国に19校、私立大学も16校あるとされています。戦後は、正確な統計を入手しにくいのですが、学生数は約30万人と言ったところでしょうか。

イラクの学校制度は日本と同様の6・3・3・4制度です。高校での勉強と全国共通の最終試験を終えた後、学生は大学に入学することができます。最終試験の科目は、文系と理系で異なりますが、アラビア語、英語、数学と理科系科目、社会系科目およびイスラム学(非イスラム教徒は免除されます)で試験が行われ、平均50点以上の成績を収めることができれば、卒業資格が取れます。今年も7月の半ばの新聞紙上に、この最終試験の合格者の名簿が発表されました。今年は、平均99.4点という大変な高得点を取った女子学生がいたことも報じられていました。(サダム・フセイン政権時代は、バース党の有力者や大統領の友人の子息であれば、平均点は初めから公式に底上げされていましたが、今はそのような制度はなくなりました。)

この最終共通試験の成績により、どの大学のどの学部にいけるかが決まります。5月に行われる最終共通試験が学生にとって如何に重要か、想像できるでしょう。高校だけではなく、小学校でも中学校でも生徒は最終学年の最後に全国共通試験を受けます。 全国各地の大学や短期専門大学の学部を紹介している学生のためのガイドを参考にして、学生は自分の試験の成績を元に、希望の大学に申し込みを行います。自分の成績ならどの大学なら入学できるのかは、おおよその目安でしかわからないので、第二希望、第三希望も申し込みます。学部によっても難易度が異なり、医学部などに入るためには優秀な成績が必要なようです。

4年制の大学のほかに、2年制の短期大学(専門大学)もあります。バグダッドの主要な大学は、バグダッド大学、ムスタンサリア大学、バグダッド工科大学、ナハレーン大学(旧名サダム大学)、といったところでしょうか。ナハレーン大学は、従来よりいろいろな点で他の大学と異なった制度を採っており、例えば、5年制ですが卒業すると修士の資格が取れます。 国立大学では、従来昼の部と夜間の部があったのですが、戦後は治安の悪化を反映して、夜間の部がなくなり、午前の部と午後の部に分けられています。午前の部の学生の学費は無料で、午後の部は年100〜150米ドル程度の学費を払う場合もありま。このシステムはちょっと不思議ですが、古くからそのようになっているようです。 私立大学の学費も年200〜600ドル程度と高いものではありません。

こうしてみると、学生はずいぶん自由に大学に入れるようです。しかし、一般的にいってイラクの大学での教育は十分ではなく、学生もあまり勉強しないと、イラク人は言います。大学生の授業欠席が大きな問題になっているという報道もかなりありました。現在の落ち着かない状況の中で、学生が腰を据えて勉強しないと嘆く声も強いようです。大学の単位を取るのも、教官や事務局にお金を払えば何とかなるという噂すら日常のことです。 確かに自爆テロが連日続くような治安状況では、なかなか落ち着いて勉強できる雰囲気でもないでしょう。高等教育省の発表では、戦後の2年間で100人以上の大学教授が殺害されたと言われています。

大学生の一日は、どんな感じでしょうか。 バグダッド大学の英語学科で勉強する学生の場合を見てみると、朝の授業は8時半から始まります。大学までいく交通手段は、徒歩、乗り合いタクシー、家族や自分の車、バス、ミニバスなどです。授業の1コマは45分で、日本のように大学だから1コマの授業時間が長くなると言うわけではないようです。クラスは30人から50人といったところですが女子学生が半分以上を占めています。小学校高学年から男女別学になり、中学校、高校も完全別学であったのが、大学になって急に共学になることが、大学生活の大きな特徴と言えるかもしれません。1時くらいまでに5コマくらいの授業を終えると、今日の勉強は終わり、仲間たちとカフェで昼食を取って談笑したり、家に食事に帰ります。 イラクでは、戦争でいろいろなものの仕組み、制度が変わりました。大学の授業も時間通り行われることが少なくなったということです。バグダッド大学でも、戦後の混乱の中で施設が略奪や盗難にあったため、LL機材などもほとんどなくなってしまいました。学生に対するセキュリティチェックも厳しいですし、学ぶための環境は良くないのですが、それでも学生たちは自由を謳歌し始めているようにも見えます。もちろん、イラクの大学生たちも戦後の厳しい状況の中で苦しんでいるのですが、一方でフセイン時代とは違って、将来は自分の好きなことを自由にできると夢を持つ学生がたくさんいます。 日本の大学との交流を行いたいと考えている大学人もいるようです。日本への国費留学も今年度から再開されましたし、日本とイラクの間で大学間交流が徐々に盛んになることが期待できるでしょう。



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