早稲田大学ラグビー部入部式で講演
(新入生はのちの大田尾主将の学年)
[2000年4月8日 東伏見運動場内 校舎]

今日死んでもいいから攻める

ワシントンにいたとき、街をたまたま一人で歩いていたら、オックスフォードのラグビー部だったやつと会って「なんでこんなところにいるんだ」っていう話になった。彼はアメリカのコンサルティング会社に勤めていたんです。
 そして、彼の紹介でジョージタウン大学のラグビーフットボールクラブに行ったんです。そこで早稲田でラグビーをやっていて、オックスフォードでもやっていたと言ったらみんなすぐに友達になってくれて、すぐにそのラグビー部に入れてもらえたんです。アメリカではほとんどラグビーができないという状況だったのが、すぐに、もう行った日から試合ができたんです。

そのほかにも、欧州担当になって、ヨーロッパの統合というものを直接担当しましたけれども、ロンドンとかダブリンとかパリとか、ラグビーの盛んなところに何度も仕事で行きました。そういうところで仕事の合間に、「自分は日本では早稲田でラグビーをやっていた」というと直ちにむこうも理解して、受け入れてくれるんです。仕事をしているなかでもラグビーで得た人脈に非常に助けてもらっている。
 それは、もちろん仕事のなかで手を抜いたことはないつもりなんだけれども、短い間でも東伏見でそれなりに一生懸命やったことがやはりつながっているのかなと思う。
 だから、人生には“こうすればこうなる”ということはないと僕は思っていますが、“こういうことをやっていないとこういうことには絶対ならない”ということはたくさんあると思う。それはさっき言った、毎日の積み重ねなんだ。だから、そういうことをぜひ今日から目指してほしい。

僕自身は、当時2年生になったときに「今年はおそらく対抗戦にも出られるだろう」と思っていた。1年生のときにも若干チャンスはあったんだけど、これは逃しちゃってダメだった。当時は早稲田が負けているときで全体の雰囲気は非常に悪くて、練習の雰囲気もダメでだった。
 僕はなんであのときあんな判断ミスをしたのかなといまでも後悔するところがあるんですが……そのときは自分は何のために大学に入ったのか、これじゃなんのために大学に来たのかわからないって思ってしまった。ラグビー部に入るために来たのに、非常に雰囲気が悪くて、帰属意識ってやつを持てない時期があった。それでやめてしまった。これまでたくさん判断をしてきたけれども、この判断だけは決定的なミスだったといまでも思っています。
 みんなには僕の失敗を繰り返さないでほしい。迷う時は出てくると思うけれど、その時には今日冒頭で言ったように、いまここで苦しんで乗り越えることが必ず何かにつながると思ってほしい。みんなはそういう環境にあるんだ。
 残念なことに、当時学生だった自分はそういうことまで思い至らなかった。そういう環境は他にもあるだろうから自分で作ればいいと、非常に傲慢な気持ちだった。いまから思うと、それが当時21歳の青年に与えられた非常に貴重な環境と機会だったということを、そのときまったく気付かなかった。

だから、いましかできないことに死力を尽くしてほしい。冒頭言ったように、より高いものを求めてくれ。
 こういう目標っていうのは、立てるのは簡単なんだ。でも、なかなか実践のなかで活かされてこない。あるいは今日やるパス、今日やるキック、今日やるタックル、今日やるスクラムのなかになかなか活かされてこない。
 いつか、キャプテンの中竹(竜二)が言っていましたが、「今日も日本一の練習をやるぞ」と。僕はこういう精神に通じるところがあると思う。
 僕は、日本一じゃなくて、もっと高いものを目指してくれっていうのが希望なんだけど、それを目指すためにはやっぱり“今日死んでもいいから、攻める”ということ。僕の同期でキャプテンになった奥脇(教)は1年生の練習の時にこんなことをよく言っていました。「みんな、なんでここできつい顔するんだ。ここからがいよいよ力がつくところだ」と。
 僕もその当時はその意味がよくわからなかった。「こいつ、自分を鼓舞するために言っているだけだ」なんて思っていた。でもそういう発想っていうのは、“苦しいけれどもこれを乗越えていって、死力を尽くすということを体で覚えよう”というメッセージだったんだろうと思います。

僕はオックスフォードにいたときに、すぐにレギュラーにはなれたものの、ケンブリッジとの試合には出られなかった。いまから思うと、自分もそのときやはりチャンスがよくわかっていなかった。その後、同志社の林(敏之)くんとか、“ブルー”になっているのがいるけど(オックスフォード対ケンブリッジの試合に出ると“ブルー”の称号が与えられる)、あのとき自分はもっと別のやり方があったんじゃないかということを、反省を込めて考えることもよくある。これもさっき言ったように、そのときしかできないことに全力を尽くしていなかったのかもしれない。
 僕自身、人から見るとすべてうまくいっているように見えるらしいんだけど、自分で考えるとやはり学生時代のある時期に全力を出さなかった。それからやはり同じことをオックスフォードで繰り返してしまった。だから、これもみんなの教訓として言えば、高いものを目指して死力を尽くすプロセスのなかで必ず挫折がやってくる。必ず判断ミスが起こる。それは、その瞬間にはわからない。だから、迷ったらぜひ、監督とかキャプテンとか僕たちに相談してほしい。
 ここだけは僕のやった失敗を繰り返さないでほしいという気がします。つまり、より高いものを目指して、今日、全力を尽くすんだけれども、必ず迷うときがやってくる。必ずきついときがやってくる。例えば「自分はレギュラーになれないかもしれない」と。それはそうかもしれない。全員がレギュラーになれるわけじゃない。そういう厳しさはみんなもう肌身にしみてわかっていると思うけれども、やはりそういう迷いが出てきたときには原点に戻ってほしい。自分は何しにここに来たのか。ここには環境がある。さっき言ったように、ここを使って何をやるかはもうみんな次第である。そういうことをもっと単純に考えれば、「いやそんな簡単にチャンスを逃すなんて、こんなバカなことはない。これを活かせるのは自分しかいないんだ」ということに気付く。このことをぜひ頭に入れて今日からやってほしい。
 “より高いものを目指して死力を尽くす。”その気持ちだけは忘れないでほしい。そうすると、技術的にも自ずといろんなことが考えられてくるんです。

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